「井上靖詩 そんな少年よ」  菅谷連穂



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 そんな少年よ

これといって遊ぶものはなかった。
私たちはただ村の辻に屯(たむ)ろして、
棒杭(ぼっくい)のように寒風に鳴っていたのだ。
それでも楽しかった。
正月だから何か素晴らしいものが
やって来るに違いないと信じていた。
ひたすら信じ続けていた。
私は七歳だった。
あの頃の私のように、
寒さに身を縮め、
何ものかを期待する心を寒風に曝(さら)している
少年はいまもいるのだろうか。
いるに違いない。
そんな少年よ、おめでとう。

井上 靖 詩